忍足さん。俺の中では、跡部部長に次ぐ、もしくは比肩するであろう『危険人物』。よって、下剋上すべき相手だ。・・・テニスでは、あまり考えたことはないが。
「ちゃ〜ん。今日も、カワイらしいなぁ。」
「もう。そんなこと言われても、何も出ませんよ?」
も(不本意だが)慣れたらしく、こんなことでは、あまり反応を示さない。しかし、忍足さんは、それで満足するような人じゃない。
「いやいや。俺は本心から、そう思ってるだけやで。」
そう言って、に手を伸ばす。・・・だから、危険人物なんだ。
「忍足さん。次、忍足さんの番ですよ。」
俺は、の方へ伸ばしていた忍足さんの手を掴んで言ってやった。
「ホンマや。そりゃ、残念やったなぁ。・・・ほな、ちゃん。また後でな〜。」
「はい、頑張ってくださいね。」
アホそうにブラブラと手を振る忍足さんに、は笑顔で返した。
そんな笑顔、忍足さんなんかに見せなくていいんだ。と言うか、そんな笑顔を見せたら、いつ襲われるか、わかったもんじゃない。
「日吉、タオルいる?」
今度は、俺の方を見て、首を傾げて聞いてきた。その上、は俺より背が低く、自然と上目遣いになる。・・・だから、そういうのは止めろ。
「・・・あぁ。」
「はい、どうぞっ。」
俺が少し視線を逸らして返事をすると、がまたしても笑顔で、俺にタオルを渡した。
・・・・・・・・・・・・・・・まぁ、俺に見せるのはいいか。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
そう言ったは、忍足さんのときよりも、もっと嬉しそうに笑った。・・・これは、俺の希望か?いや、誰だって、礼を言われれば、嬉しくなるもんだ。
「でも、これが私の仕事だから、いちいちお礼を言わなくてもいいんだけどね。」
は、照れながら、そう言った。・・・・・・照れる?何に?
あぁ、自分の仕事を評価されたからか。その前に、俺は、何だと思ってたんだ。むしろ、何だと良かったんだ?
「仕事でも、してもらったことには礼を言う。誰だって、当たり前のことだろ?」
「そっか。そうだね。」
「ちゃ〜ん。俺にもタオル〜!」
「あ、はい!どうぞ。」
「おーきに。」
自分が導き出そうとしていた答えに、少しイラつきながらに返事をしていたら、いつの間にか、忍足さんが戻ってきていた。
「もう終わったんですか。」
「そうそう。ちゃんと話したくて。な?」
忍足さんは、そう言いながら、の頭をよしよしと撫でた。・・・おい、何してんだ。この丸眼鏡・・・!
その前に、俺も近くに居ながら、阻止できなかった。・・・くそ。
「日吉。次、日吉の番とちゃうか?」
ニヤニヤしながら言う忍足さんに、かなり嫌気がさしたが、たしかに俺の順番だ。・・・ちっ。ここを離れるのは、かなり心配だ。
「そうみたいですね。・・・。このタオル、少し濡らして来てくれないか。」
「ん?タオル・・・?うん、わかった!じゃ、お預かりします。それじゃ、頑張ってね。それでは、忍足先輩。ちょっと行って来まーす!お話は、また後程ですね。」
「はいはい、頑張っといでー。・・・・・・・・・・・・やるやん、日吉。」
「何のことですか。」
俺は勝ち誇った顔をしながら、そう言ってやった。フッ・・・。下剋上だ。
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あ〜ぁ、暇やなぁ。・・・いや、部活中やし、そんなん言うてたらアカンねんけど。でも、今は順番待ち。コートが3面あるとは言え、やっぱ部員が多いと、なかなか回ってこーへん。
あ、そうや。最近の俺には、アイツらが居ったな。
「ちゃ〜ん。今日も、カワイらしいなぁ。」
「もう。そんなこと言われても、何も出ませんよ?」
俺はふざけ気味に、マネージャーのちゃんに絡んだ。・・・いや、もちろんホンマにカワイらしいとは思うけど、恋愛対象とかやないねん。だって、ほら。あっちから、やたら日吉の視線が痛く刺さる。
この2人は、俺のカワイらしい後輩で、実は両思いやのに、互いに気づいてへんと言う、何ともからかい甲斐がある2人。と言うわけで・・・。
「いやいや。俺は本心から、そう思ってるだけやで。」
そう言って、俺はちゃんに手を伸ばした。これで、日吉の視線はどうなるやろ?と思て見てみたら、意外と近くに居って。
「忍足さん。次、忍足さんの番ですよ。」
そんなことを言って、ちゃんの方へ伸ばしていた俺の手をしっかり掴んで止めた。
おぉ、合格や、日吉。・・・それにしても、マジで痛いんやけど?
「ホンマや。そりゃ、残念やったなぁ。・・・ほな、ちゃん。また後でな〜。」
「はい、頑張ってくださいね。」
ま、合格やし、許しといたろ、と俺も素直に従った。でも、観察は続けさせてもらうで。
「日吉、タオルいる?」
と言いながら、ちゃんは首を傾げ、しかも、自然に生み出された上目遣いで、日吉に尋ねた。
ほぉ。おそらく、計算とかやないんやろうけど、これには日吉も動揺しとるわ。
「・・・あぁ。」
「はい、どうぞっ。」
日吉が少し視線を逸らして返事したら、ちゃんがまたしても笑顔で、日吉にタオルを渡した。
・・・あの日吉の嬉しそうな顔。
「ありがとう。」
「どういたしまして。でも、これが私の仕事だから、いちいちお礼を言わなくてもいいんだけどね。」
日吉の礼に、これまたちゃんが嬉しそうに返す。・・・ホンマ、ほのぼのしとって、えぇなぁ。
と思っとったのに。
「仕事でも、してもらったことには礼を言う。誰だって、当たり前のことだろ?」
と、日吉が冷たく返す。・・・アカンわ、日吉。いくら照れるとは言え、そんな返しは失格。
「そっか。そうだね。」
ほら、ちゃんも、ちょっと寂しそうやないか。はい、もうアカンで。
「ちゃ〜ん。俺にもタオル〜!」
「あ、はい!どうぞ。」
「おーきに。」
失格やから、それ相応の罰ってことで、また邪魔しに戻って来たった。そしたら、案の定、日吉はめっちゃ嫌そうな顔で言うた。
「もう終わったんですか。」
「そうそう。ちゃんと話したくて。な?」
俺はそう言いながら、ちゃんの頭をよしよしと撫でた。
はい、今のを止めれへんかった罰な。ま、罰って言うか、現実でもあるんやけど。
「日吉。次、日吉の番とちゃうか?」
「そうみたいですね。・・・。このタオル、少し濡らして来てくれないか。」
「ん?タオル・・・?うん、わかった!じゃ、お預かりします。それじゃ、頑張ってね。それでは、忍足先輩。ちょっと行って来まーす!お話は、また後程ですね。」
「はいはい、頑張っといでー。・・・・・・・・・・・・やるやん、日吉。」
なるほど。日吉も考えたな。俺とちゃんを一緒に居させへんつもりやな。
別について行っても良かったんやけど、まぁ、今回は合格やし、許しといたろ。
「何のことですか。」
そう勝ち誇ったように言った日吉を見て、俺も思わず笑いそうになる。
ま、今後もこういう俺の試験に、ちゃんと合格していけば、ちゃんとくっつく日も近いで。頑張りや。
とりあえず、忍足さん・・・・・・真面目に練習しましょう。
そんな話です(←どんな話だ/笑)。日吉くんたちの様子を観察しながら、テニスする忍足さん・・・。良い子は真似しちゃいけませんね(黙れ)。
さて。この頃、日吉くんは自分の気持ちを素直に認めていないようですねぇ〜。「好きなんやろ?」と忍足さんも言いたいところでしょう。こんな日吉くんがどう変わっていくのか、いかないのか・・・。
まだカウントダウンは始まったばかりですので、長くはなりますが、最後までお付き合いいただければ、と思います!
('09/11/06)